4年連続で3%超の引き上げを答申~最低賃金、大幅引き上げの影響と課題(上)~

著者
大正大学地域構想研究所 教授
金子順一

毎年、大幅な引き上げが続く最低賃金。今年も改訂時期を迎え、白熱した論戦が繰り広げられた。地域間格差の是正など最低賃金が抱える課題と制度の今後を考える。

初の1000円台乗せが確実な東京都と神奈川県の最低賃金

今年6月に政府が公表した「経済財政運営と改革の基本方針2019」(骨太の方針)は、最低賃金に関し、「景気や物価動向を見つつ、地域間格差にも配慮しながら、(中略)より早期に全国加重平均が1000円になることを目指す」とし、過去3年間続いた3%程度の引き上げを本年も継続する方針を示した。この政府方針を受け、都道府県別最低賃金の改定を審議する厚生労働省の審議会は、7月末に本年度の引き上げ額の目安を答申した。今後、この目安をもとに都道府県労働局に設置された審議会で検討、本年度の最低賃金が最終的に決まることになる。

審議会が示した目安によれば、本年度の全国加重平均による最低賃金(時給)は901円。前年度874円から27円、率にして3.09%(前年度3.07%)の引き上げとなった(以下のグラフ参照)。27円は過去最大の引き上げ額である。これで2016年度から4年連続、3%台の引き上げが確実となった。賃金・物価の現状を考えれば、前例のない大幅な引き上げが続いている。

引き上げ額の目安は例年どおり、都道府県の経済状況に応じAからDの4ランクに分けて示された(以下の表参照)。Aランクである東京都、神奈川県、大阪府などは、対前年度28円の引き上げ。東京都の場合、現在の最低賃金額(時給)は985円で、目安どおり決着すれば新最低賃金は1,013円になる見込み。現在983円の神奈川県も1,011円となり、東京とともに初めて1,000円台の最低賃金が実現する。

一方、Dランク県の目安は26円に引き上げ。現在、最低賃金が最も低い鹿児島県(761円)では、目安どおりであれば787円に引き上げられる。率は3.4%(東京都の場合は2.8%)と高いが、現在224円の東京都との格差は、逆に226円に広がることになる。鹿児島県以外のC・Dランク県でも、地域間格差について同様の事態が起こることになる。

 

小零細企業への支援策強化と実効性の確保が問われる

いま、最低賃金のあり方に熱い視線が注がれている。7月に実施された参議院選挙では、各党とも最低賃金引き上げを選挙公約に掲げた。また、審議会での論議や報道等でも、非正規雇用で働く人の賃金・生活改善、引き上げによる経済効果など、強調する点に違いはあるにせよ相当程度の引き上げが必要という点では、各方面の意見は概ね一致している。ただ、大幅引き上げには懸念材料も少なくない。最も典型的な指摘は、急激な引き上げが続くことで、賃金コストの上昇についていけない中小零細企業が出てきている点である。厚生労働省の審議会では、使用者側の委員から強い懸念が表明されたという。

使用者側委員の見解によれば、従業員30人未満の企業では、連年の引き上げにより影響を受ける労働者の割合(影響率)が急激に上昇しているという。

2012年には4.9%であった影響率(全国)は、2018年には13.6%に急上昇。神奈川県では影響率は25%を超え、青森県、鹿児島県、大阪府でも20%前後に達している。多くの地域で、最低賃金付近に相当数の労働者が集中しており、引き上げが中小企業に与える影響は極めて大きいとしている。

最低賃金は強い強制力を持つ規制である。最低賃金法は、最低賃金に満たない賃金で労働者を働かせることを禁止する。法律に違反した使用者には刑事罰が課されるほか、最低賃金額での支払いが求められる。仮に労働者との合意があっても最低賃金以下の労働は認められない。こうした強行的性質を有した制度なのである。それだけに急激な引き上げが続くことは、影響率を高め、特に小零細企業の経営を圧迫するとの指摘は理解できる。

だがその一方、時給1,000円で1カ月フルに働いても17万円程度の収入である。地方では800円にも満たない県が多く、その月収換算は14万円程度に過ぎない。最低賃金として1,000円程度の水準を求めることは、働く側から見れば当然のことであろう。この最低賃金をめぐる論議は、長年続いてきた古くて新しい論点である。ここ10年、非正規労働の広がりを背景に、その生活実態の改善が叫ばれ、また賃金底上げによる消費拡大がマクロ経済政策の重要課題に浮上する中で、改めて課題が浮き彫りになったのである。

引き上げに伴う対策としては、影響の大きい小零細企業の生産性向上に向けた支援策が、いつも俎上にのぼる。また、賃金コスト上昇を取引に転嫁できるよう、下請取引の適正化も叫ばれて久しい。大幅引き上げが続く中、こうした支援施策の強化とその実効性の確保が、いま、改めて問われている。

⇒続きは『地域人』Vol.51号で!

2019.11.15