地域間連携という測定しにくい「効果」測定の試み

著者
大正大学 地域構想研究所 主任研究員
中島ゆき

エビデンスが重要視されてきている

最近はEBPM(Evidence-Based Policy Making=証拠に基づく政策立案)の重要性が謳われ、政策効果を数字で示そうとする潮流がでてきています。

EBPMとは、内閣府の定義によると「政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること」(*)を指します。政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計等のデータを活用したEBPMの推進は、政策の有効性を高め、国民の行政への信頼確保に資するものと言われており、現在内閣府では、EBPMを推進するべく様々な取組を進めています。

政策の有効性を測るという方向性は、2015年に日本全国の自治体が作成した「まち・ひと・しごと総合戦略」から、全国的にその機運を高めた背景があります。同戦略では、KPIによる数値目標が細かく具体的に設定されました。

KPI(key performance indicator)とは、もともと企業などの組織において、個人や部門の業績評価を定量的に評価するための指標です。達成すべき目標に対し、どれだけの進捗がみられたかを明確にできる指標が選択され、これをもとに、日々の進捗把握や業務の改善などが行われていきます。こうした数値的目標の設定とその効果測定は、企業などにおいては一般的に使われている経営思考でありますが、行政府ではまだその取り組みが始まったばかりと言えます。

(*)内閣府HP「内閣府におけるEBPMへの取組」より抜粋

いかに「効率」より「効果」に軸足を置くかが課題

KPIなどの数値目標を設定することは、目標を分かりやすい形で可視化でき、共通の目標の共有と浸透、さらに具体的な改善策を分析するのにも客観的に合意が得られやすいものです。

しかしその一方で、数値的目標が先に立ちすぎてしまうと、その活動の内容や質的なものが問いにくくなる危険性も併せ持っています。こうした危険性に対して、PHP総研の亀井善太郎主席研究員は日経新聞の中でこのようなコメントを出しています。

「これまでは非効率なものは悪しきもので削減の対象、との意識があった」その上で「これからの政策立案は効率よりも効果がどの程度あるかを重視していくべきだ」(日本経済新聞 2019年8月16日夕刊より抜粋)

こうした目に見えない活動の内容とその「効果」の測定方法も含め、どのように見える化していけるのか、がこれからの政策立案の課題といえます。

それがEBPM重要性の背景であると言えます。

地域間連携という測定しにくい「効果」を測定する試み

こうした政策評価が議論されている中、筆者は地域間連携の「効果」測定を試みました。地域間連携は、自治体職員の積極的な活動が求められる一方でその成果が測りにくく、逆に自分たちで「やったことで満足」となる危険性を持っていると言われがちな活動です。自分たちがやっている事が、何につながっているかわからないと、ともすると、政策のための連携も生まれやすいのが実情です。

そこで今回は、弊所の連携自治体の一つであります長野県箕輪町、および弊学の本拠地であります豊島区との協力を得て、「長野県箕輪町と豊島区の地域間連携」の成果測定を行いました。

(⇒調査の詳細は 「箕輪町・豊島区交流推進調査研究」に関する報告書が完成しました」)

同調査の結果を簡単にご紹介します。

箕輪町と豊島区は、これまで10年近く連携事業を実施してきました。その連携活動の成果として、地域内でどのぐらい浸透しているのかを指標に選定しました。その測定のため、豊島区を除く東京都22区&26市と豊島区住民(全2077人から回答)とでインターネットアンケート調査による比較調査を実施しました。

豊島区を除く東京都の住民に「長野県 箕輪町」を知っているかを尋ねたところ、33.9%の人が「知っている」と回答。それに対して、豊島区での認知度は38.0%。豊島区の住民は、豊島区以外の東京都住民と比べて認知度が高いという傾向がでました。

また、「箕輪町を知っている」(N=308)を対象に、豊島区との交流都市であることを知っているか尋ねたところ、「知っている」と回答したのは全体で10.4%、豊島区では13.1%、豊島区以外は6.3%と、豊島区がより認知度が高い結果が得られました。

このように、豊島区での認知度が他の区よりも高いという結果が出たことで、地域間連携の活動の成果が出ていると判断できます。

一方で、その活動がどのように地域住民に影響を与えたのかという質的な「効果」という観点の測定については、実際には母数が少なすぎてエビデンスを提示する測定までは至りませんでした。また、測定すべき指標が何が妥当であったのかも反省が残る部分であります。今後は、こうした「効果」を測定するために具体的な指標をより精度をあげて検討する調査精度の課題も大きいと言えます。

課題は残るものの、今回のようにEBPMの思考を持って調査活動を続けることは、今後とても重要であることを今回の試みで実感しました。「地域間連携の活動結果を数値で見える化すること」は、これまでの地方自治体の立場ではなかなか測りにくいものでありました。今回はそのチャレンジでした。

「自分たちがやってきた事がちゃんと結果に繋がっているのがわかり、非常にうれしい」

調査結果を報告した際に、職員の方々からいただいた声です。

活動者のモチベーション維持・強化、さらには効果的な活動の継続という点でも、今後は、今まで以上に活動の「効果」に焦点をあててエビデンスを集めていく必要があるでしょう。そのためには、何でその「効果」を測るかという、「指標」が正しく検討されていくことの重要性が高まってきていると言えるのではないでしょうか。

2019.09.15