「道の駅」におけるサイクルステーション

著者
大正大学地域構想研究所 客員教授
山本祐子

自転車活用推進法とサイクルツーリズムの推進

現在、地方自治体が注目している観光地域づくりのひとつに、自転車を活用して地域の観光に役立てようという“サイクルツーリズム”がある。この背景には、自転車が単なる交通手段というだけではなく、スポーツや趣味を楽しむツールとして注目されており、ロードバイク等のスポーツ車が近年増加していることがある。このことから、サイクリングイベントへの参加や観戦等によって地方に足を延ばすことで、観光消費額の増加にも結びつくのではないかという自治体の期待が“サイクルツーリズム”に寄せられている。

国においても、自転車活用の整備が推進されている。自転車を総合的・計画的に活用することで、環境、交通、健康増進等の課題解決策に繋がるとともに、経済的・社会的な効果も期待できるとして、2017年(平成29年5月1日)には「自転車活用推進法」が施行された。国土交通省にはこの法に基づいて「自転車活用推進本部」が設置され、表1のような基本方針に沿った施策が検討・実施されている。この施策(観光来訪の促進、地域活性化の支援)により、サイクルツーリズムを取り入れる自治体が増加しているのである。

表1 自転車活用推進法の基本方針における重点的検討・実施事項
資料:国土交通省

インバウンド客におけるニーズの変化と「コト消費」の整備

さらに、自治体がサイクルツーリズムを検討する理由には、訪日外国人客におけるニーズの変化がある。インバウンド客による消費の対象は買い物中心の「モノ消費」から、体験型観光の「コト消費」へと変化しており、「コト消費」のさらなる可能性を検討する必要性に迫られている。自然環境豊かな地域にとっては、この「コト消費」とサイクルツーリズムがマッチした、ということであろう。

とは言うものの、日本の自転車に対するインフラ環境の整備は未だ道半ばであり、現在はまさに「2020東京オリンピック」を目途に、走行環境、受入環境、情報発信などの要件を備えた「ナショナルサイクルルート」が検討されている。インバウンドにも対応したルートが成立するためには、複数の市町村および空港、鉄道駅、道の駅等の連携、およびサイクリストの受入施設となる「ゲートウェイ」の整備が必要となる(国土交通省)。これ等の要件を満たし、全国各地に、「ナショナルサイクルルート」が設定される日は近い。

「道の駅」におけるサイクルステーション設置の動き

ゲートウェイでは多様な交通手段を使って到着するサイクリストが想定されることから、いかにして彼らを安全に目的地までナビゲートするかが課題となる(図1)。具体的には、目的地までの支援施設として、「サイクルステーション」が検討されている。

一方、「道の駅」においても「サイクルステーション」設置の動きがある。「道の駅」には、道路利用者のための「休憩機能」を担う設備がすでに備えられているため、幾分かの新たな機能を追加することで比較的負担が少なくサイクルステーションとして活用されうる。「道の駅」は自動車利用者の休憩施設であるが、さらに自転車利用者の休憩施設「サイクルステーション(道の駅)」としても活用できる可能性があるということである。

既に、「道の駅」のサイクル拠点化を行っている地域がある。例えば、北陸「道の駅」では約半数がサイクルステーションを設置している(北陸「道の駅」連絡会)。提供しているサービスは、シャワー・温泉が利用可能な箇所もあるものが、おおむね空気入れや工具の貸出、サイクルスタンドの設置などである。

図1:サイクルロードの整備と「道の駅」におけるサイクリング環境整備(案)
資料:国土交通省(筆者加筆)

サイクルツーリズム先進国における運営の知見

次に、サイクルツーリズムの先進事例国に目を向けてみる。フランス、ドイツ、スイス、イタリアはサイクルツーリズムが盛んな国であるが、中でも山岳地域の自然環境を楽しむ観光として確立しているスイスは、日本にとっておおいに参考になると考えられる。

スイスは、「スイスモビリティ」と称して、サイクリング、マウンテンバイク、ハイキング(図2.3)などの多様なアクティビティメニューを用意している。スイスモビリティは、「SwitzerlandMobility Foundation」という団体によって運営されているが、各アクティビティには行政区分を越えるルートが整備されている。さらに、それぞれのルートには全国共通の標識が整備(スイス政府観光局)されている。また、それらの情報はリアルタイムで配信されているため、海外から来ている利用客にも分かりやすい。

スイスモビリティは充実した運営体制を構築しているが、この運営をバックアップしているのは、政府機関(連邦省、州、リヒテンシュタイン公国)、民間企業、公共交通機関など多岐にわたる。こうした多様な連携・協力により、自転車のレンタル、夜間の宿泊施設、複数の地方ルートでの荷物預かりなどを可能にしている(SwitzerlandMobility Foundation)。したがって、海外から来ている客にとっては、いつでもどこでもアクティビティが楽しめる国となっている。

図2 スイスモビリティ(マウンテンバイク)筆者撮影

図3 スイスモビリティ(ハイキング)筆者撮影

「道の駅」におけるサイクルステーションの役割と「東京2020オリンピック」

いよいよ、「東京2020オリンピック・パラリンピック」の開催まで1年を切った。自転車関連の競技には、ロードレース、マウンテンバイク、BMXレーシング、トラック等が予定されている。特に、自転車ロードレースは、男子約244km、女子約147kmの長距離走行となる。レースが展開される沿道では、日本人をはじめ世界各国からの多くの観戦客が予想される。通過する自治体だけでも、14市町村(東京都、神奈川県、山梨県、静岡県)におよぶ。まして、観戦客がレースの沿道に到着する迄には、複数の自治体を通過し、多様な方法で到着することが予想される。

こうした状況から、「東京2020オリンピック・パラリンピック」は、サイクルツーリズムの有り様や提供サービスを検討するにあたり、有用な機会となるだろう。「道の駅」の多くは、市町村の地域振興施設である。つまり、公共性がある施設ということになる。

観光地域づくりとして、サイクルツーリズムを実施するにあたり、何が問題になるのだろうか。10年以上に渡り、サイクルツーリズムを実施している事業者(長野県)に課題点を問うてみた。その回答は、「事故・怪我の際の受入病院」であった。特に、インバウンドの際には言葉の壁とともに、救急車における搬送や受入病院に苦労をする、と述べている。

この課題の解決策は、インバウンドならではの難しい問題が絡んでおり、市町村や「道の駅」が連携しても解決できない点も多々あるだろう。しかし、多様な連携により、何が可能で、何か不可能かの情報提供だけでも有用になると考えられる。

サイクルステーションの有り様ははじまったばかり、今後に「道の駅」ならではのサービスが創造されることに期待したい。

 

 

 

2019.08.01