コミュニケーション能力の育て方

著者
大正大学地域構想研究所 特命教授
山本繁

これまでの働き方が通用しない”これから”の仕事

私たちの仕事はバブル崩壊から失われた20年を経て大きく変わった。その変化がどのようなものであったのかを再確認してみたい。以下は筆者が講演・プレゼン等で使っている資料からの抜粋である。

【仕事の”これまで”】
-働き方・暮らし方:男性によるモーレツサラリーマン(社会・地域・生活との接点が少ないワークオンリー)
-成果に繋がる人脈:社内ネットワーク(飲み会等で人脈構築)
-成果の出し方:内製化(抱え込み)、シェアUP(独占)
-コミュニケーションの仕方:トップダウン&ボトムアップ
-仕事の進め方:PDCA
-仕事のツール:アナログ
-間接部門の担い手:一般事務、パート、派遣

【仕事の”これから”】
-働き方・暮らし方:男女共働き(社会・地域・生活との接点が多く、暮らしの中からビジネスに役立つヒントも得るワークライフバランス /ミックス)
-成果に繋がる人脈:社外ネットワーク(副業、兼業、プロボノ、ボランティア、子ども起点で人脈構築)
-成果の出し方:オープンイノベーション(巻き込み)、CSV(共通価値創造)
-コミュニケーションの仕方:フラット
-仕事の進め方:PDCA+デザイン思考
-仕事のツール:デジタル
-間接部門の担い手:AI、ロボット

仕事の”これまで”では、男性がモーレツサラリーマンとして働くことが尊ばれていたと思う。彼らは会社の飲み会等に積極的に参加することで構築した社内ネットワークを生かしながら、自社単体での事業開発・事業展開を通じて市場シェアを高めることを目的に働いてきたといえる。社内でのコミュニケーションスタイルはトップダウン&ボトムアップであり、PDCAサイクルを回せる人材が有能だった。アナログの時代であり、特に管理職は”紙”や”一手間”を好んだ。間接部門は一般事務やパート、派遣の女性たちが多くを担った。モーレツサラリーマンには、そのような間接部門で働く女性と職場結婚した人も少なくなかった。

仕事の”これから”では、男女が同じ職場で対等に働き、定時で帰宅する人間が職場でも家庭でも尊ばれる。そして子育てを通じて社会や地域に積極的に参画し、暮らしの中からビジネスに役立つヒントや洞察を得ていく。また、地域や社会での活動は独自の社外ネットワークを広げる機会であり、成果の出し方はオープンイノベーションやCSV(共通価値創造)に変わり、それにつれてフラットなコミュニケーションスタイルが選ばれるようになる。PDCAサイクルを回せることに加えて、デザイン思考やデジタルツールを巧みに使い、間接部門を担うAIやロボットとも”上手くやっていける”人材が有能という評価を得る。結婚相手は、職場で自分と対等に働く同僚か独自の社外ネットワークの中で見つける。

このような変化は、既に起きている業界・地域と、そうではないところがある。変化の速度は一律ではない。しかし、多少のタイムラグは伴いながらも、やがてこの大きな変化は私たちの職場を一変させるだろうと筆者は考える。筆者が大学に入学した1997年当時は、まだ一部上場企業でさえ各デスクにパソコン1台ではなかった。読者の中には各部署にパソコン1台だった時代を覚えている方も多いのではないだろうか。それからわずか20年で職場は激変した。

さようなら、ワークオンリー

さて、本稿は本連載の最終回である。テーマは「コミュニケーション能力の育て方」。

第Ⅲ回で「コミュニケーション能力とは、自分とは異なる文脈を持って生きている人をどれだけ理解できるか?」と定義したが、子育て、介護、地域コミュニティ等との関りはコミュニケーション能力を磨く絶好の機会だ。このような場所・場面では、普段出会わない多様な人々と出会える。

卑近な例だが、筆者には保育園に通う5歳の息子がいる。先日、父母会のあとにいくつかの家族で食事をしていたら、あるママ友が実は職場ではデータサイエンティストとして働いていることを知った。この日は、子育てをキッカケに、職場や自宅にひきこもっていては得られない生の情報を得られ、日頃感じていたデータサイエンスに関する疑問がいくつか解消する貴重な一日となった。

このような交流は、コミュニケーション能力を高めるだけでなく、普段の仕事からでは得られない幅広い見識や教養を得ることにも役立つ。次世代を担う子ども・若者たちには、そのような機会に早くから恵まれてほしいと思う。それによって30代以降、本格的に子育て、介護、地域コミュニティ等に関わっていく素地もできていく。

もちろん一時期、仕事にのみ集中する期間があっても構わない。特に20代から30代前半は自分の時間を自分のためだけに使える稀有な時期だ。そこで仕事のスキル・経験をより多く蓄積したり、実績を作り社内外にポジションを築いていくことにもじゅうぶん価値がある。

しかし、自分とは異なる文脈を持って生きている人との出会いや理解にも同じくらいの価値がある。そのような時間を持てる制度や文化の変革が、一人ひとりのコミュニケーション能力を高める。大げさに言えば社会の変革に繋がっていくのではないだろうか。特に日本の場合、ワークオンリーの人生を過ごす男性(父親・夫)があまりに多かった弊害が、今さまざまな課題として政治、社会、地域、企業、家庭や子ども・若者たちに顕れているように筆者には見える。会社や家族のために身を粉にして働いてきた男性自身にも。読者の皆さんの周りでは、果たしていかがだろうか。

まもなく平成が終わる。右肩下がりの日本だったが、良くも悪くも時代は変わる。”これまで”最適だったものも、”これから”変える必要が出てくる。それを実際にするのが今を生きる大人たちの使命だろう。新時代を担う子ども・若者たちの健やかな育ちを心から願って、本稿ならびに本連載を終えたい。

2019.04.15