国勢調査より「平成で新たに誕生した職業」_後編

著者
大正大学 地域構想研究所 主任研究員
中島ゆき

前回は「 国勢調査より「平成で新たに誕生した職業」」前編で、一覧をご紹介しました。後編では、それぞれの職業が生まれた背景を、時代の変化と合わせてみていきたいと思います。

 

情報システム系の新職業

(情報ストラテジスト;システムコンサルタント;ビジネスストラテジスト;ISアナリスト/ITサービスマネージャ;システム保守技術者;サーバー管理者;情報セキュリティ技術者/情報処理プロジェクトマネージャ)

かつて、平成2年の国勢調査まで、同系統の仕事は「システム・エンジニア」か「プログラマー」のいずれかに区分されていました。昭和、いわゆる1980年代の同分野は、企業の情報システム部門の専門家のみが行っていた情報システムの開発・運用が主な仕事でした。

それが一変したのがインターネットの登場です。1990年代は商用プロバイダーによる接続サービスの開始拡大、平成に入ると携帯電話の普及。インターネットや携帯を介した消費スタイルに大きな変化をもたらしました。こうした背景から、企業向けの情報システム分野から、Webサイト上で利用されるサービスの開発・運用、またそれを利活用する企業・個人へと分野が拡大してきたのです。これらの業務にあわせ、単なるシステム開発だけでなく、コンサルタントやアナリストといった仕事が登場してきたのは、平成の大きな特徴の一つです。

 

心理カウンセラー(医療施設)/心理カウンセラー(福祉)

昨今、心理カウンセラー職は医療現場だけでなく福祉、教育、企業などさまざまな現場でお見かけする仕事の一つでしょう。一般的に認知度の高い仕事ですが、実はこれまで日本では、心理士、心理カウンセラー、心理セラピストなどの心理職には国家資格が存在していませんでした。一方で、多数の民間資格が存在し、一定の基準・スキルの明確化が社会的に求められてきた背景があります。昨年2018年8月に日本で初めての心理職の国家資格「公認心理師」が誕生し、第一回試験は同年9月に実務従事者などを対象に実施され、2万7,876人の合格者が出ています。(厚生労働省HPより)

日本における同職の背景は昭和61年までにさかのぼるようです。同年、診療報酬制度の中に「臨床心理技術者」(心理職)という言葉が初めて使われ、日本の医療現場での心理職の重要性とニーズの高まりが反映されています。以降、昭和63年に臨床心理士の民間資格制度開始、平成4年には旧労働省が産業カウンセラー審査(技能審査)開始、平成31年には文科省がスクールカウンセラー全校配置スタートなどを契機に、現在は多くの人が知る、なりたい仕事の一つとなっています。また、今後も社会的ニーズが高まることが予測される、平成生まれの仕事の代表格と言えそうです。

 

金融商品開発者、金融ストラテジスト、保険商品開発者

「金融・保険専門職業従事者」の小分類は金融・保険を専門的に扱う職種が急増したことから、平成27年度に新設されています。(平成27年度国勢調査で16万5400人が従事) その例示の中に初めて登場してきた職種が同職です。新設される以前は、証券や保険の“売買”あるいは“仲立人”のいずれかの区分しかありませんでした。「ストラテジスト」すなわちStrategist=戦略を立てる人、商品を開発する人という職業が新しく誕生した訳です。

この背景には平成8年(1996年)から平成13年(2001年)にかけて行われた金融制度改革、いわゆる「日本版金融ビッグバン」の影響が大きいといえるでしょう。大手証券・銀行の大型合併が相次ぎ、手持ちの銀行カードが何度も変わった記憶がよみがえります。日本版金融ビッグバンによって、銀行・証券、生保、損保などの相互参入も可能となり、業界全体の自由化の波が押し寄せたことは大きいでしょう。例えば、それ以前は、各社の保険商品には多きな差はみられなかったものが、以降、平均して年1~3回程度の新商品が市場に出るようになったと言われるほど、開発が盛んになってきた業種です。そのため、国内外の経済状況を分析し、見極め、幅広い知識を持った戦略家、開発者のニーズが高まってきたことによって生まれた職業の一つです。

 

テクニカルライター

「記者,編集者」の小分類の例示に、平成27年度に初登場したのが「テクニカルライター」という職業です。法的に定まった定義がある分野ではありませんが、一般的に「取扱説明書」などを書くライターのことを指しています。昨今、大量に出回る電子機器、パソコン、携帯、家電など、さまざまな商品に必要な「取扱い説明書」です。ニーズが高まってきており、一つの職業分野を確立したのもうなずけます。

また、昨今は海外との輸出入市場が大きいため、「取扱説明書」の翻訳分野までも幅を広げ始めている職業です。

 

苦情受付事務員(電話以外によるもの)

「その他の一般事務従事者」の小分類の例示に、平成27年度に初登場したの「苦情受付事務員(電話以外によるもの)」。改定時の改定理由記載欄には「受付・案内事務員との区分を明確にするため内容例示に“苦情受付事務員”を追加」(「日本標準職業分類案分類項目名、説明及び内容例示新旧対照表)より)とありました。

苦情処理の歴史は、国民生活センターおよび消費者保護基本法の歴史によると、昭和60年代に急激に整備強化されています。当時の通産省では、国民生活センターによる苦情処理などの窓口整備を推進してきた他、産業界に対しても苦情処理体制の整備を求めた動きが記録されています(※2)。こうした記録から、案内受付と苦情受付を選別させてきた時代背景が伺えます。

(※2)参考「通商産業政策(1980~2000年)の概要(4)商務流通政策」2014年、独立行政法人経済産業機構より

 

調査員(統計調査員;世論調査員;市場調査員)

職務内容にはこのように記載されています。「他人を訪問し、統計調査、世論調査、市場調査などの調査において、調査票への記載を依頼し、回収する仕事に従事するものをいう」

改定時の改定理由記載欄には「相当数の従事者が見込まれることから小分類として新設」(「日本標準職業分類案分類項目名、説明及び内容例示新旧対照表)より)とあり、平成27年国勢調査では3万8800人が従事しているということです。企業のマーケティング活動の活発化の他、各自治体によるアンケート調査実施頻度も高まっており、平成で新たに誕生した職業としては特徴的です。

一方で、今後は人手による同調査回収作業は果たして増えていくのか疑問です。一般的な企業のマーケティング活動をはじめ、国勢調査のインターネット回答が増加傾向にある中、同分野は機械化が進み別の形式へと転化する可能性がありそうな職業といえそうです。

 

リサイクルショップ店主、店員

リサイクル通信(株式会社リフォーム産業新聞社、東京都中央区)(※3)によると、同社の調査開始である平成21年(2009年)以降、リユース市場は毎年右肩上がりで成長しています。

「日本が資源回収に本格的に取り組み始めたのは昭和48(1973)年のオイルショック以降のことであり,その後,平成3(1991)年の廃棄物処理法改正,平成12(2000)年を前後する各種リサイクル関連法の制定という大きく3つの段階を,「リサイクル」さらには「3R」という言葉をキーワードにして推進してきた。」(※4)

まさに、昭和から平成の変化大きな変化である、経済消費からリサイクルへ。リサイクルショップ店主、店員が国勢調査の例示に登場するようになったというのは、まさに平成の象徴といえる仕事の誕生といえそうです。

(※3)リサイクル通信=株式会社リフォーム産業新聞社、東京都中央区/中古市場データブック2018より(※4)「リサイクルという言葉の誕生から3Rへの変遷」2010年、大澤正明より抜粋

2019.02.26