設計図を描く能力を身につける

著者
大正大学地域構想研究所研究員
山本繁

マニュアル化できる仕事はAI・ロボットでもできる

今あなたの仕事・職場にマニュアルはありますか?マニュアルがいま存在する仕事は、AIやロボットに近い将来取って代わられる可能性があるかもしれません。マニュアルを覚えることやその通りに業務を行うことを、彼らは最も得意としています。そして、マニュアルがあるということは、AIやロボットに代替させる準備がすでに整いつつあることを意味しています。

マニュアルが今はなくても、マニュアル化可能な仕事はAIやロボットに取って代わられる可能性があります。あなたやあなたの職場の人間がマニュアル化できなくても、地球上の誰かが一度マニュアル化しさえすれば、あとはAIやロボットの方があなたより上手にその仕事ができるかもしれません。そして、幸か不幸か、地球上には極めて優秀な人間が少数ですが存在します。ビル・ゲイツやジェフ・ゾベスがそのような人間の代表です。

AIやロボットで代替可能になった場合、論点は次に移ります。つまり「彼らの人件費とあなたの人件費のどちらかが高いか?」です。

筆者が通っている美容院では、昨年、シャンプーをする仕事が人間からロボットに取って代わられました。シャンプーにかかる時間は約3分、料金は500円です。1台のロボットが生涯に行えるシャンプー回数と、美容院がロボットを購入するために要する費用を天秤にかけ、人間にシャンプーをさせるよりもロボットにシャンプーをさせた方が得になったのでしょう。人間はどうしたらよいのでしょうか?

考えられることは3つです。

①美容院で働く人の数を減らす

②ロボットより安くシャンプーをする労働力を提供する

③シャンプー以外に人間がやった方がいい仕事を見つける

①は、美容師をやめなければいけない人が発生します。②は、美容師という仕事はより低賃金になります。どちらも幸福な未来とは言えないでしょう。ならば、人間が選ぶべきは③です。つまり、ロボットよりも人間がやった方がいい新しい仕事を作るということです。

訓練すれば、新しい設計図は描ける

では、新しい仕事を作るには一体どうすればよいのでしょうか?人は新しい仕事をすぐに作れるようにはなりません。新しい仕事を作るには、ある種の訓練が必要です。「顧客を理解し、新しい価値の設計図を描く」訓練です。

違う言い方をすれば、訓練によって人は新しい仕事を作る方法を学ぶことが可能です。なぜなら、それはそれほど難しいことではないからです。「顧客を理解し、新しい価値の設計図を描く」たったそれだけのことだからです。

最大の問題は、美容師になるまで、そのようなことをほとんど経験していないことです。また、初心者に教えられる人間が現状ではごく限られることです。子ども・若者たちへの教育を考えるならば、このようなことを体系的に教えられる人間を育て、子どもたちが大人になるまでに経験できるようにしていくことです。

アメリカでは近年、デザイン思考を教える大学が増えています。スタンフォード大学のD-Schoolは日本でも紹介されていますので、ご存知の方も多いかもしれません。非デザイナーがデザイン思考を学ぶためのデザインスクールです。

「顧客を理解し、分野を超えて、新しい価値の設計図を描く。」そういう訓練が必要だという洞察が背景にはあります。また、D-Schoolのような非デザイナーのためのデザインスクールは、MBAと対比して説明されることが多くあります。

MBAの教育が効果的な対象は、金融や商社に勤めるような人たちです。これらの業種は、どちらかというと商品・サービスの設計図の良しあしで戦ってはいないからです。彼らはマネー(資本)の力で戦っています。お金はお金であり、天然資源は天然資源ですから、そのような経営資源を上手に活用し利益を得るという仕事に従事する人たちに、MBAの教育は合っています。

それに対して非デザイナーのためのデザインスクールでは、商品・サービスの設計図の描き方を教えています。なぜそのような教育が注目されるようになったのかというと、近年、大成功した起業家にはデザイン教育を受けた経験を持つ人が多かったからです。そのような起業家の中でもっとも偉大な成功を収めたのは何といってもスティーブ・ジョブズでしょう。

また、いわゆる起業家教育にも商品・サービスの設計図を描くカリキュラムが含まれるケースが多いです。創業間もないベンチャー企業はマネーの力では戦えませんから、イノベーティブな設計図で戦うのが王道です。

これまでデザインスクールや起業家教育は、ごく一部の特殊な人たちのためにあると認識されてきました。しかし、これからは普通教育に組み込まれるようになるでしょう。

次回はコミュニケーション能力を身につける方法の話をして、この連載を終えたいと思います。

2019.02.14