退職シニアの地域回帰を支えるための基盤整備を

著者
大正大学地域構想研究所教授
金子順一

退職シニアの“地域デビュー”は案外難しい

人口減少、少子高齢化の進行で、生産年齢人口(15~64歳)の減少が続く中、女性の就業促進、外国人労働者の受け入れ拡大が注目を集めるが、増加を続ける高齢者の活躍促進も忘れてはならない。

2019年は、人口構成上の大きな集団である“団塊の世代”が70歳になりきる年。人生100年時代、団塊世代など元気な高齢者には、できるだけ長く社会の支え手として活躍してもらうことが大事だ。

大企業など長期雇用の下で働く人たちは、定年後の継続雇用を含め65歳程度まで会社で働き続けるのが普通になった。継続雇用年齢を70歳に引き上げる政策も検討されている。

定年前から第二の職業キャリアに挑む人々もみられるが、多くのサラリーマンは、退職後は地域で居場所・出番を探すのが一般的だ。これまで暮らしてきた地域で、あるいは都会からUターンしてふるさとで活躍機会を探すことになる。

定年等で地域に回帰したシニア(退職シニア)には、シルバー人材センターなどで軽易な仕事に従事するほか、地域活動、社会貢献活動の担い手として活躍することが期待される。高齢者の独居、子どもの貧困、子育て支援、教育、治安、防災、環境など少子高齢化で解決すべき課題が地域には山積している。

また、現役世代の働き手の減少で、介護、生活支援、保育等の福祉サービス、小売業、運送業など地域に密着した産業分野で人手不足が顕著になっている。退職シニアがこうした人手不足分野で仕事に就き、現役世代を支えることへの期待も大きい。

このように退職シニアの出番・居場所は確かにそこにあるように見える。だが、そこには思いのほか高いハードルがある。“地域回帰の壁”である。長期雇用の下で会社中心に人的ネットワーク(社縁)を築いてきた人にとって、地縁がなく、行動の流儀も異なる地域活動へ溶け込むのは案外難しい。

また、仕事を探すにしても、自分のキャリアや希望に沿った職を地域で探すのは簡単ではない。

退職シニアを地域の多様な活動の場へつなげる入口機能の整備

長い会社勤めで企業社会の流儀に染まり、企業中心の人的ネットワークを当たり前のものとしてくると、地域活動の物事の進め方、スタイル、価値観に少なからず違和感を覚える。また、会社勤めでは当たり前のことである役職の上下関係から抜け出すのが案外難しいとも言われている。

こうした中で、つながりの乏しい人の輪に飛び込むことに躊躇するのは無理からぬことだ。地域のことをゼロから知る覚悟で飛び込めと言っても容易ではない。地域回帰の壁には、こうした長年の会社勤務を通じて形成された心理的要素が少なからず影響している。対策を考える際は、どうすれば地域回帰のハードルを低くできるか、アプローチしやすくできるかが重要な視点になる。

高齢期の地域での働き方をできるだけ幅広く一体的に捉える視点も重要である。事業経営、生活の糧を得る労働、生きがい就業、有償・無償のボランティア、福祉活動、自治会活動など、高齢期の多様な働き方・活動のニーズに対応できることが大切である。

そして、退職シニアが活躍の場を探すとき問題になるのは、そもそもどのような活動団体が当該地域にあるのか、そしてどのような活動をしているのか、情報把握が容易でないことである。情報提供が縦割り、細切れに行われていることが主な原因だろう。自分には何ができるのか、それはどこに行けば実現できるのか、情報だけでなく相談相手も時には必要になる。地域のこと、高齢期の暮らし方を知る研修機会の設定も有益である。

首都圏のあるベッドタウンでは、「地域デビューきっかけ広場」というイベントを実施している。退職シニアなどを対象に講演会の開催や地域で活動している団体の紹介を行い、地域回帰に成果を上げている。地域活動に関心を持つシニアが、地元の様々な団体、グループの活動を把握でき、自分の趣味、嗜好にあった選択ができる。こうした選択を支える機能を“地域回帰の入口機能”と呼ぶとすれば、その整備・強化が急がれる。

職住が離れ、地域とのかかわりが乏しくなりがちな大都市圏では、とりわけ退職シニア活躍への期待が大きい。情報発信、相談窓口、研修機会などの入口機能を整備することにより地域に回帰した人々を地域活動や就業へとつなぐとともに、シニアには生きがいを持って長く元気に暮らしてもらう。

高齢者の就業促進は、このような退職シニアが活躍する地域づくりと一体的に進めることが重要だ。

自治体での取り組みが更に進むことを期待したい。

2018.11.01