国勢調査から消えた「平成の職業」

著者
大正大学 地域構想研究所 主任研究員
中島ゆき

職業の変化をみると、時代の変化がみえてくる

昨今は、AIの進展により「多くの仕事がAIに置き換えられる」といった論調が取り沙汰されている。確かに、都市の発展や技術革新は人々のライフスタイルを変化させ、それに併せて職業も変化してきたという歴史がある。

古くは、19世紀末、社会学者のG.ジンメルはパリで14番目役という職業が起こったと記している(※1)。当時のパリは社交文化が華やかであり、週末になるとあちこちでパーティが催されていた。しかし参加者が13名となってしまった場合「最後の晩餐」を思い浮かべてしまい都合が悪いことから、そのような時に急遽パーティに参加してくれる人材を派遣してくれるのが14番目役だというのである。都市化が生んだ新しい職業である。

ジンメルは、パリが大都市化し人口が集中してきたこと、それによる仕事の専門分化で一風変わった職業が成り立ちうると指摘している。ライフスタイルが変化し、時代の流行が変化する中で、人々のニーズから新しい職業が生まれる。時代は変われど、未来も同じ現象が続いていくであろう。

その一方で、時代とともに消えていく仕事もたくさんある。

昭和の時代にみられた「紙芝居屋」、「チンドン屋」、「竿竹屋」などは、平成生まれの今の大学生に聞いても「見たことがない」、あるいは「テレビでみたことがある!」との回答が返ってくる。

それでは、平成生まれの彼らが、将来自分の子どもたちに「昔はこんな仕事があったんだよ」と言う時に、一体、どんな職業が挙がるのだろうか。

今回は平成の終わりを前に、平成の職業変遷についてみていこうと思う。

 

(※1)原書”Die Grossstädte und das Geistesleben” 1903年、翻訳「大都会と精神生活」川村二郎編訳『ジンメル・エッセイ集』1999年より

 

国勢調査の変遷からみる、職業変化の捉え方

どのような職業が消えたか、あるいは新たに誕生したかを調べるには、現在、5年に1度実施されている国勢調査で使っている「日本職業分類」をみるのが最適である。同分類は、昭和35年(1960年)に設定されてから、これまで5回の改定を経て今に至る。直近で大幅な変更が加えられたのは平成9年(1997年)と平成21年(2009年)と2回あり、ちょうど国勢調査の平成2年(1990年)と平成27年(2015年)の間であるため、平成の時代変化を反映させた職業分類を数字で捉えることができる。

すなわち、国勢調査平成2年の職業分類に存在していたもので、平成27年に存在していない職業を「消えた職業」と捉えることができる。

日本職業分類は、「大分類─中分類─小分類─(例示)」に分けられている。これら分類項目の廃止・統合および例示(小分類内で記されている具体的な職業名)の消失を洗い出した。

参考:総務省HP 「日本標準職業分類

平成で「消えた職業」

以下の表は、国勢調査平成2年時点では存在していたものの、平成27年調査で廃止・削除された職業の一覧である。

オレンジの枠は小分類の廃止で、色なしの枠は例示(小分類内に記載されている具体的な職業名)から名称が消えた職業である。

※但し、この間、かなり大幅な分類の改定が行われている。特に、農林漁業、製造業、掘削業などは、分類の定義自体を変更しており、単純な「廃止」「削除」を比較できないため、本論では割愛した。

【表】分類から消えた職業

※「国勢調査 平成2年、平成27年」より筆者作成

 

●上記表の上4つについては、いずれもワードプロセッサ、通称ワープロの減退と、それに呼応してPC(パーソナルコンピューター)の台頭に依る職業の変化といえる。

ワープロは筆者も大学生の卒論で四苦八苦しながら操作したのを覚えているが、日本で初めて専用機が発売されたのは昭和53年(1978年)で東芝の「JW-10」である。その後、シャープが最後のワープロ専用機の生産終了を宣言したのが平成14年(2002年)。まさに昭和と平成をまたいだ技術革新の象徴とも言える。

タイピストやキーパンチャーも同様に、PCの台頭により分類から削除された仕事といえる。すなわち、タイピングなどのみを業務とする専用職が減り、PCその他の機器類の全般的な操作へと職域が拡大したことの現れである。タイピストについては、総務省の職業分類新旧対応表内で「従事者数が減少していると考えられることから(平成12年国勢調査1300人)削除」と明示されている。キーパンチャーも同様の傾向。併せて、速記者学校講師、タイピスト学校講師の職業名も削除されている。

●声色師、奇術師などは、演芸家の内容が変化してきた時世が色濃く表れている。

●キャバレーのレジスター係については、総務省の職業分類新旧対応表内で「従事者数が少ないと思わる事から例示から削除」となっている。かつては、キャバレーのみ独立させて例示に表記させていたことから、昭和初期、当該職業が目立って多くなってきた背景が伺える。

●平成27年国勢調査において「集金人」は小分類で存在しているが、従事者数は2万5,480人と平成2年の6万9,013人から縮小傾向である。同分類の例示は、放送受信料,電気,ガス,水道,新聞購読料がラインナップされている。平成2年まではここに預貯金集金人、保険料集金人が存在していたが、削除となった職業である。昨今は、ネット決済が主流となってきており、今後消えていく可能性の高い職業と予想される。

●平成生まれの大学生で、「場立人、才取人」を知っている学生はほとんどいないであろう。かつて証券取引所に存在していた仕事である。以前は、「手サイン」と呼ばれる取引所専用の手合図で取引が行われており、その手サインを出す人たちのことを「場立人」と呼んだ。一昔前は、ニュースで証券取引所の映像が流される時は、決まって「場立人」が活発に手サインを出す姿が映されていたものである。平成11年(1999年)に証券取引所の立会場が廃止され、株式売買の注文付け合せが完全に自動化されたことで、同職業もなくなった。いわゆる、ネットトレーディングの一般化による。インターネットの普及により、真っ先に影響を受けた職業の一つと言えるかもしれない。

●注文取りは、すなわち御用聞きである。昨今、注文のみを専門とする仕事が激減し、名称が削除されたものである。現在は、小分類「その他の営業職業従事者」の位置づけとなっているが、「注文取り」の言葉はほぼ一掃されており「販売員」「外交員」という名称となっている。唯一残っているのが、ホテルや飲食店などを対象とした限定的な洗濯を扱う仕事として「洗濯注文取り人」という職業が例示されている。

●呼売人とは、大声で商品名を呼びながら売り歩く職業を指す。最近まで見かけていたのが「豆腐呼売人」ではないだろうか。平成9年の改定時でも、最後に残っていた。昭和5年の「行商人、呼売人、露天商人」従事者数は31万9000人で、当時の販売従事者の10%程度を占めていた。店舗を持たない販売スタイルとしては、現在のデリバリーがそれに該当するのであろう。こちらも、ネットによる買い物が拡大するにつれ消滅していった職業の一つである。

●戦後の高度経済成長期はミシンの売れ行きが大変好調な時期であり、国内生産台数は370~440万台の間を推移。それとあわせて、ミシン販売員(訪問)という専門の仕事が必要とされた時代である。販売員は販売と同時に設置も請け負っており、昨今の町の電気屋さんのように販売・設置、修理の存在に近かったようである。10世帯に1の割まで広がっていたといわれており、需要のある職業であったことは想像に難くない。時代とともに販売台数は減少し、当然ながらミシン専門の販売員という職業も削除された。

●平成9年の改定前までは、「その他の販売類似職業従事者」の例示の中に、絹織物買継人、牛馬仲介人、雑穀仲介人、電話売買仲介人など、今では聞きなれない職業が並んでいる。この中でもつい最近まで存在していたのが「電話売買仲介人」だ。今や、黒電話は博物館でしか見られないような代物になりつつあるが、自宅固定電話に電話加入権が存在していることを知っている若者も少なくなってきている。現在も電話の権利を売買仲介してくれる業者が存在するが、専門の職業が成り立つほどのニーズはなくなっている。絹織物買継人、牛馬仲介人、雑穀仲介人など、仲介のニーズが減少。特に人手を介して仲介を行うことのニーズが消滅することによって消えた職業である。

●書生、留守番という職業が平成9年まで例示の中に名称として記載されていたこと自体に、私も少々驚いたが。夏目漱石の小説に出てくるような時代の職業かと思いきや、昭和の後半まで受け継がれていたようである。削除されるまでは「その他の家庭生活支援サービス職業従事者(小分類)」の中にあった。すなわち、家事手伝いの位置づけである。しかしながら、事典で調べてみると、明治・大正期に、他人の家に住み込みで雑用等を任される学生を指していたようであり、果たしてこれが職業として成り立っていたのかは興味のあるところであるが、未調査である。

●最後に、電気・ディーゼル機関士であるが、「平成12年国勢調査では、同分類の就業者数はすでに1,200人という結果であり、その数は減少傾向のため、現行で廃止する基準(1,000人程度未満)に該当する」とされて、小分類が廃止された。現在は、小分類「鉄道運転従事者」の中に例示職業として記載されるのみとなっている。

 

★本記事で列記した職業はあくまで統計調査上から名称が「消えた職業」を示しており、実際に同職業就業者がゼロであるかどうかは確認できない。そのため、現時点で同職業に就かれている方におかれましては異論もあるかもしれませんが、何卒ご了承いただければ幸いです。

新しい時代はどう変わるのか?

冒頭で、AIの進展により「多くの仕事がAIに置き換えられる」といった論調が取り沙汰されていると書いたが、ネガティブ論を誇張する論が多いのが気になるところである。すなわち、AIによって仕事が奪われるという論調である。単にAI技術の発達だけで仕事が置き換えられるという見方では、新しいニーズを掘り起こせない。「AI技術にサポートしてもらい」新しいライフスタイルから生み出されるニーズをキャッチするという方向に意識転換してこそのAI技術であろう。平成で削除された職業をみつつ、今後の時代の変化から生まれるニーズに着目したい。

そこで、次回は「平成で新しく生まれた仕事」を探求してみる。

2018.12.10