人生100年時代の高齢者の定義  ─65 歳以上が高齢者なのか─

著者
大正大学地域構想研究所教授
金子順一

社会保障や雇用の制度では高齢者の区切りは65歳。 人生100年時代を迎え、75歳以上を高齢者とする社会意識を定着させ、高齢者の活躍を一層促進することが必要だ。

人口構成上 65 歳以上が7%超で
「高齢化社会」と定義したWHO

人口構成の高齢化を知るうえで、「高齢化率」という指標がしばしば用いられる。総人口に占める65歳以上人口の割合を表す数値である。

超高齢化社会に突き進むわが国では、高齢化率 は年々上昇を続け、2015年時点で 26 ・6%、国民4人に1人が 65 歳以上という状況にある。

この高齢化率、実は 30 年程前(1985年)に は 10 ・3%、 65 歳以上人口は国民 10 人に1人にすぎなかった。この間の高齢化のスピードには、驚くばかりである。今後も高齢化率は上昇を続け、2036年に 33 ・3%(3人に1人)、2065年には 38 ・4%、(2・6人に1人)になると見込まれる。

数字だけ見ていると嘆息が出る気分になるが、数字の前提となる 65 歳という高齢者の年齢の区切りに根拠はあるのだろうか。手掛かりは、今を遡 さかのぼ ること 50 年前、1965年に世界保健機関(WHO)が発表した報告書のようである。
同報告書によれば、人口構成上 65 歳以上人口が 7%を超えたとき「高齢化社会」と定義した。主要先進国における当時の平均寿命は、男性が 60 歳台後半、女性は 70 歳台前半であった。現在の日本人の平均寿命は当時に比べると、男女とも優に 10歳以上上回っている。
平均寿命が今よりずっと短かった、 50 年前につ くられた 65 歳という区切り。やや極端ないい方をすれば、 65 歳以上を高齢者とするのは、人口構成の変化を時系列的に見るための1つの仮定、約束ごとにすぎない。それは、人生100年時代における高齢者の定義としては、いささか低すぎるように思われる

それにも関わらず、 65 歳以上イコール高齢者という捉え方は、私たちの日常感覚の中に根強く残る。

こうした通念は、社会保障や雇用という社会制度に由来するものだ。
老齢年金の支給開始年齢は 65 歳、それに接続す る形で定年後の継続雇用が求められる年齢も等しく 65 歳までがほとんどである。定年制の下で働く勤労者にとっては、経済的事情が許せば 65 歳前後が引退年齢ということになる。

一方、介護分野では 65 歳を境に被保険者が区分 される。介護給付は主に65歳以上の者が対象だが、保険料負担は40歳以上から。医療分野では65歳から74歳までは前期高齢者、75 歳以上は後期高齢者とされ、後期高齢者には別建ての医療保険制度が設けられている。

このように、年金をはじめとする各種社会保険 制度や雇用制度の設計には、65 歳という区切りが強く意識されることになる。

平均寿命、健康寿命とも伸長している現在、制度設計そのものを見直す必要があるようにも思うが、社会的に定着した雇用制度や年金のような長期の社会保障のしくみは、白地のキャンバスに絵を描くようには修正できない。

そうした中、2017年1月、 65 歳以上を高齢 者と捉えることに関して、大変重要な提言が公表された。新たな高齢者の定義について検討を進めてきた日本老年学会をはじめ、高齢者医療、老年学の専門家によるグループが、明るく生産的な健康長寿社会を目指して報告書をまとめ、提言を行ったのである。

その提言によれば、高齢者を 65 歳以上とする定 義は医学的・生物学的に明確な根拠はなく、近年の高齢者の健康に関するデータからは、「若返り」現象が見られるとしている。

高齢者定義を 75 歳に引き上げるのは
高齢期の人生設計において重要

現在の高齢者は 10 〜 20 年前と比較して、加齢に伴う身体的機能変化の出現が、5〜 10 年遅延しているというのである。これは私たちの生活実感とも符合するものだ。

  1. 提言では、高齢者を以下のように区分する。
    准高齢者( 65 〜 74 歳)
    高齢者( 75 〜 89 歳)
    超高齢者( 90 歳以上)

このうち准高齢者(前期高齢者)については、 心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めていると指摘。従来の定義では、高齢者になる人たちを社会の支え手、モチベーションを持った存在と捉え直すことの重要性を強調している。

65 歳以上とされてきた高齢者の定義を、 10 年先 に延ばして 75 歳程度に考えるのは、高齢期を展望した人生設計において大変大切なことである。もちろん心身の状況、経済的事情などで高齢期には個人差が大きい。一律に年齢で捉えるのは、適当ではない。個人ごとの事情に照らし、暮らし方や働き方を考えるのは当然であり、あくまで将来の人生設計の目安・心積もりとして 75 歳を考えるのである。

このように、社会意識としての高齢者像を人生 100年時代に即したものに転換することが必要だが、高齢者の定義に関する議論はどうしても社会保障制度の設計と結びつきやすい。「年金の支給開始年齢を 65 歳以降に繰り下げるための議論ではないか」といった懸念が出てくるのである。

確かに、その心配はもっともなことだ。最近、 政府が方針を打ち出した〝個人の選択による年金支給開始年齢の繰り下げ〞であれば何ら問題ないが、高齢者の定義と社会制度のあり方を直接結びつけることには、細心の注意が必要になる。

2014年に内閣府が実施した調査では、何歳からが高齢者なのかとの問いに対し、「 70 歳以上」または「年齢では判断できない」と回答した人が全体の9割近くを占めた。高齢者の定義を 75 歳程度へ引き上げることは、国民の感覚とも齟 そ 齬 ご はない。75 歳以上が高齢者という意識が社会全体で定着すれば、 20 歳くらいから 70 歳過ぎまで現役で活躍するのが当たり前になる。長い職業人生の中で、キャリアが1つで終わることはないだろう。スキル、知識を蓄えながら、また人的ネットワークを広げながら、2つや3つのキャリアを持つことが普通の時代を迎えることになる。

都会で長く働いてきた人が、人生後半は地方で 暮らし活躍する。
こうしたキャリアもこれからは、有力な選択肢となるだろう。

2018.07.01