「関係人口」創出に向けた課題と視点について

著者
大正大学 地域構想研究所 主任研究員
中島ゆき

次期「総合戦略」が4月からスタートします。国の第1期「総合戦略」の基本目標の一つであった「東京一極集中の是正」が目標達成していないと指摘されている中、その対策の一つとして、「関係人口」という概念が新しく登場し、自治体の間で注目されてきています。

そこで今回は、この「関係人口」について以下の3つの点を考えてみました。
(1)「関係人口」が注目された背景
(2)目標設定5つの取り組みと2つの視点
(3)「関係人口」創出に向けた課題、「ファン度」について

(1)「関係人口」が注目された背景

●地方創生の「次の5年」が2020年から始まります
全市区町村の約半数が「将来消滅する恐れがある」 (※1)という、強い危機感から始まった地方創生でした。そこから5年経ち、2020年度から第2期「地方版総合戦略」がスタートします。

「関係人口」という文言は、この第2期の戦略の中で、「東京一極集中の是正」に向けた取り組みの一つとして新たに明文化されて登場しています。
「関係人口」とは、もともと雑誌『ソトコト』の編集長である指出一正氏や、『東北食べる通信』編集長の高橋博之氏らが作った言葉とされており、小田切徳美教授(明治大学)が著書をはじめ、さまざまなセミナー・講演会で提唱し始めており、2018年頃から地方自治体で注目されてきている概念です。

こうした中、総務省では「関係人口」を以下のように定義しています。
「移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です」(総務省による定義)
さらに、総務省による専用サイト「地域への新しい入り口 『関係人口』ポータルサイト」(https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/index.html)も設置され、日本全国で促進強化に向かっており、国の総合戦略では、「『関係人口』の創出・拡大に取り組む地方公共団体の数を2024年度までに1,000団体に増やす」という目標数値が設定されました。

(※1)平成26年に、増田寛也氏を代表とする日本創成会議作成の報告(「増田レポート」と呼ばれている)によると、少子化や人口流出に歯止めがかからず、存続できなくなるおそれがある自治体が、全自治体の約半数にあたる896が2040年までに消滅する可能性があるとしたもの。

●「関係人口」への注目度が急上昇
各自治体にとって新しい概念である「関係人口」ですが、非常に注目度の高いキーワードとなっています。

ちなみに、「関係人口」という概念が注目されつつあった2018年に、同概念とシティプロモーションの位置づけを整理してレポートしました。
シティプロモーションの新潮流として━「関係人口」の考察と自治体の役割━(H29年版紀要 P77)」参照。
この時に、筆者が新聞記事でのキーワードヒット数を調べたところ、「関係人口」というキーワードは2017年に5件、2018年4月までで6件と、まだまだ注目度は低かったのが実情です。

ところが、昨年2019年に入り一気に急上昇したのがわかります。(図1)
(図1)新聞記事によるキーワード出現頻度の推移

この1年で、急激に注目されてきたのがわかります。
さらに第2期「地方版総合戦略」に明文化されたことで、今年はさらに急上昇するのは間違いないでしょう。

(2)目標設定5つの取り組みと2つの視点

現在「地方版総合戦略」策定の時期ということで、本考では自治体がどのように目標設定していくのかを整理してみました。
総務省で2018年度に実施された「関係人口創出モデル事業」からみると、以下の5つの取組みに大別できそうです。
①ふるさと納税の活用
②ファンクラブや応援市民などの会員化制度
③相談窓口やWEBサイトによる入口の整備
④体験や留学など体験メニューの充実
⑤サテライトや副業など企業向け支援制度の充実

これらの取り組みをみると、情報発信や受入れ時の情報整理などの「入口」と、地元で何をするのかという「内容」との2種類の視点であることがわかります。
(※ふるさと納税の本質論や賛否については、今回は割愛しますが、同税も情報発信としての「入口」と返礼品としての「内容」に分けられます。)

(3)「関係人口」創出に向けた課題、「ファン度合い」について

このように取り組みの方向性が「入口」と「内容」の2つの視点である訳ですが、これらをどのように「地方版総合戦略」で目標設定していくのかが気になるところです。
総務省が出している最新の「地方版総合戦略の策定・効果検証のための手引き」(令和元年12月版)では、「行政活動そのものの結果(アウトプット)ではなく、その結果として住民にもたらされた便益(アウトカム)に区別して数値目標を設定するよう」に求めています。(同手引きP9より転載)

この考え方からいくと、「入口」についてはアウトプットの数値目標が比較的容易にイメージつきそうです。例えば、ふるさと納税者数(売上げ)、ファンクラブの会員数などです。
しかしながら「内容」についてはどうでしょうか。例えば、「会員制度」や「体験」など、企画の内容を見ていかなければならないのですが、どうしても登録者数や参加者数というアウトプット設定になってしまいがちです。これを「こうした体験(制度を使用)したことで、その人たちがどのように満足したか」「どのような効果が地域にもたらされたのか」という成果を測るようにしていく必要があるということです。
そして、「関係人口」の指標例として、(図2)のように示されています。

(図2)数値目標・重要業績評価指標(KPI)の設定に関して
「地方版総合戦略の策定・効果検証のための手引き」(令和元年12月版)P10転載

この手引きでは「関係の深化」についても言及しています。現時点では「評価する仕組みを検討」という段階でありますが、確かに「関係人口」創出の取り組みを行う際には、その「深化」を考えない訳にはいきません。言うなれば、「ファン度合い」ということになるでしょか。

この「深化」の度合いを測っていくことが、今後「関係人口」のアウトカムを測るうえでは非常に重要なことになるのだと思います。
(「ファン度合い」と「関係性の深化」は指標は同じではないでしょう。例えば、「ファン度合い」の計測ができたとしても、それはアウトカム指標とは言えないのですが、ここではそのハードルが高すぎますので、ひとまず「ファン度合い」を測る方法から考えるのがファーストステップとして良いと思っています)

そういった視点で考えると、一般企業で行うマーケティング手法の一つである「ファンマーケティング」という考えが適用できそうです。

自治体の現場では「関係人口」に期待がかかっていますので、ここで最適な「関係の深化を評価する仕組み」を作ることは重要です。

まだ、第2期の「地方版総合戦略」を公開している自治体は多くありませんが、出揃いましたら、自治体がどのような取組みとKPIを設定しているか、そしてどのように「ファン度合い」を考えていくかを、まずは分析していきたいと思っています。

2020.02.03