数字に強いまちになりたい!(研修事例紹介)

著者
大正大学 地域構想研究所 主任研究員
中島ゆき

先日、オープン化されている統計データを二次加工するスキル研修を某自治体職員に向けて実施しました。その際に、そのデータと自治体職員の体感値(=すなわち「暗黙知」に近いもの)との視点を融合させて思考・分析することで、具体的な政策立案へつなげることができた事例を紹介します。

ひとりの職員の発言から数値を掘り下げてみた!

某市の職員向けのデータ分析研修会で、ある職員から「うちの地域はボランティア活動は結構盛んだと思うのですが、それを数値で表せないでしょうか」という希望がでました。

そこで、オープンデータから入手可能なボランティア活動の統計数値と、地域独自で収集したアンケート結果を比較し、活動の実態をみる試みを行いました。

(本来は、職員様はここ数年で特に盛んになってきたということを経年の数値で示したいご様子だったのですが、今回は経年データが入手できず、単年度データを利用して分析をしました)

その結果、「某市はボランティア活動は同規模都市と比べて比較的活発である。しかしながらA地区はやや活動が弱い、一方でB地区は活動が強い」傾向がありそうだということがみえてきました。

自地域の活動で特徴的なのは50代かもしれない!

その背景をさらにデータで調べていくと、
「市全体では50代の活動が低く、A地区はその傾向が強く出ている地域であり、それが関係しているのではないだろうか」という仮説がでてきました。

この仮説が出てきた時、別の職員からはこんな視点の発言もありました。

「私たちの地域は約20年前に郊外化が加速し、新住民がかなり移住してきた時期がありました。その時に移住してきた人たちが現在50代が中心なのではないでしょうか。確かに、いろいろな活動で60代やそれ以上の方の参加は多いのですが、50代は少ない気がします。一方で、まだまだ働き盛りの年代だから活動が少ないという可能性もありますよね。」

この職員の発言を皮切りに、活発なディスカッションが生まれました。

「しかし、他の地域の50代よりうちの地域の50代の活動が少ない傾向はデータでみられるんじゃないか?」

「確かに、50代というのは重要かもしれませんね。今、地域活動以前に、中高年の引きこもりが話題になっていますが、この年代はキーマンかもしれません。うちの地域でもかなり重要な課題ではないでしょうか」
「実際、○○○課ではこんな事がありました~(事例紹介)」
「大人の引きこもりのNPOを立ち上げている方がいらっしゃいます。今度お話を聞いてみてはどうでしょう」‥等。

地域のボランティア活動の分析からスタートし、50代の活動が少ないことやA地域の特徴といった現場の話へ、最終的には中高年の引きこもりの課題へと議題は変化しました。それ以上の深いデータをこの時点では保有していなかったため、ひとまず研修はここまでで終了しましたが、その後に課内の数名有志職員とボランティアスタッフで、NPO活動者や住民へのヒアリング調査を実施したということを聞きました。

本論では後の政策立案への詳細は控えますが、同市では、その後「シニア予備軍」を対象とした活動の重要性が示され、課の総合戦略の取り組みの一つとして検討されているということです。
最初に発言した職員は住民説明会の際には数値的データの他に、ヒアリング調査によるエビデンスを自ら持って説明し、多くの住民の賛同を得て活動に向けた準備を開始しているそうです。

「数字に強いまちになりたい!」という、職員の思い

この事例は職員研修がスムーズに政策立案に結びつくことができた事例です。このようにスムーズに成果に繋がった背景には、多くの職員が「数字に強くならなければ」という意欲があったこと、「数字に強いまちになりたい!」という思いが強くあったことは大きいのではないでしょうか。

通常であれば、用意された課題をこなす研修も多いのですが、この事例では半分以上の職員が「自ら考え、自分たちの仕事にどう落とし込むか」を考えている姿勢・熱気を感じました。講師を務めた私も、ついつい時間を忘れてディスカッションに参加した研修でした。

また、最終的には職員が自主的に調査し政策提案ができるという機会が部署内に用意されていたことも大きいのではないでしょうか。意欲の高い職員も、自分が考えたことを実現できる場がなければ、徐々に「考える」意欲も下がっていくものです。こうした環境と合わさっての成功事例といえそうです。

数値データはあくまで「数字」。いかに「生きた数字」にするか?

ここ数年、国全体で「エビデンス」や「統計データ活用」の重要性が謳われています。数値を根拠に物事を語ることは非常に重要ではありますが、その一方で、数値だけでは見えてこない地域独自の文化や背景が存在しているのも事実です。

数値のデータはあくまで数値であり、物事のいち側面を照らしているにすぎません。本論の事例でも、ボランティア活動のアンケート数値から、直接的に年配者の引きこもりの実態が見えてきた訳ではありません。しかしながら、職員の(地域に根差した視点などの)体感値があってこそ、別のデータを深堀りしたり、ヒアリング調査を行ってみたりとデータ利活用の転嫁ができたのではないでしょうか。

そのため、データ偏重になりすぎず、データを利活用し地域の現場の体感値を高めながら「まちづくり」をしていくことこそ、「数字に強いまちづくり」になるのではないかと考えています。

本センターでは、そのような思いも込めて、数値的データの集積と併せて「暗黙知」集積をどう課題解決に繋げていくかの開発を続けていきたいと思っています。

2019.01.30